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神戸地方裁判所 昭和53年(行ウ)35号 判決

原告 有限会社森久樹商店

被告 灘税務署長

代理人 坂本由喜子 安居邦夫 山野義勝 ほか三名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事  実〈省略〉

理由

一  主位的請求の出訴期間の徒過について

1  本件裁決書謄本が昭和五三年八月九日、原告の登記簿上の本店の所在地である赤坂通三丁目に送達されたことは当事者間に争いがなく、本訴が同年一一月九日に提起されたことは記録上明らかである。そして<証拠略>を総合すると、次の事実が認められる。

昭和五三年八月九日に本件裁決書謄本の配達証明郵便の交付を受けたのは森千代であつたが、原告の登記簿上の所在地である赤坂通三丁目は、原告代表者の両親森久吉、千代の居宅があるのみで、原告の業務は、昭和四四年九月の原告設立以来楠町八丁目においてなされ、原告代表者も昭和四六年五月ころから、畑原通一丁目に居住しており、昭和五三年八月九日は、岡山県高梁方面に出張して、同日午後九時ころ、右畑原通一丁目の自宅に戻つた。本件裁決書謄本は、翌八月一〇日、森久吉が原告会社への出勤の際持参し、原告代表者は同日午前一一時ころこれを閲覧した。

ところで、原告宛の郵便物が赤坂通三丁目に送達されるときは、同所においてこれを受領し、森久吉が翌日ころ、原告会社への出勤の際に持参して原告代表者に交付する取扱いがなされており、原告宛に送達された法人税に関する申告書、更正処分通知書、異議決定書、不服審判所の面談通知についても右のとおりの取扱いがされたものであり、昭和五〇年度分法人税についての本件処分に対する審査請求書にも、原告は、原告の住所、所在地及び原告代表者の住所、居所をいずれも赤坂通三丁目と記載して提出しているほか、昭和五二、五三年の電話帳には、原告の夜間電話番号として森久吉の番号が記されている。

原告会社は、原告代表者の親族らが中心となつて運営する資本金一〇〇万円の有限会社であつて、森久吉は、原告会社と同種の営業をしていた、原告の前身ともいうべき株式会社森久が昭和四四年二月に債務超過で倒産して営業活動を休止するまで、その代表取締役を務め、昭和五三年当時七四才であつたが、昭和四二年ころに軽度の脳内出血を煩い、左半身が不自由なものの、原告会社設立以来、その従業員として楠町八丁目の事務所に毎日通勤して、電話による受注等の事務処理をして今日に至つている。

以上のとおり認められる。

右事実によれば、森久吉は、原告代表者の父であり、また原告の前身である株式会社森久の経営にあたつた経験等から信頼をうけて、赤坂通三丁目に送達される原告宛の郵便物を受領する包括的な権限を与えられていたものと認めることができ、また特段の反証のない本件においては、昭和五三年八月九日に、森久吉は赤坂通三丁目に帰宅して森千代から本件裁決書謄本在中の郵便物を受領したものと推認でき、したがつて同人は同日本件裁決のあつたことを知つたものと認めるのが相当である。

原告代表者本人尋問の結果中の、森久吉は原告宛の郵便物を開封することなく原告代表者に交付していた旨の供述は、前記認定のとおり、原告会社が親族を中心とする小規模な会社であり、森久吉はその前身である有限会社森久の代表取締役を務めた実績をもち、現在も原告会社に毎日出勤して事務処理にあたる能力を有している事実に照らせば、森久吉が同人宅に送達される原告宛の郵便物を開封することなく、単にこれを原告代表者に届けるのみであるというのは不自然であつて措信できるものではない。

また、原告は、森久吉に郵便物の受領を指示したことはなく、森久吉は原告会社において、重要な取引等には関与せず、原告への夜間電話番号が同人宅のものであるのは、原告代表者が赤坂通三丁目在住時のものがそのまま引継がれているにすぎない旨主張し、原告代表者の供述中には、これに沿う部分があるが、郵便物受領の指示は明示的になされることを要しないし、たとえ森久吉が重要な取引等に直接関与することがなかつたとしても、原告会社が親族を中心とする小規模な会社であり、森久吉は原告代表者の父であつて、原告会社の前身である株式会社の代表取締役を務めた実績をもち、毎日原告会社に出勤して事務処理にあたる能力を有していたこと前記のとおりであるから、森久吉が同人宅で原告宛の税務事務関係の書類を含む郵便物を受領する包括的権限を有していたと認めることの妨げとなるものではなく、<証拠略>によれば、昭和五二年一二月一日発行の職業別電話帳及び昭和五三年五月一日発行の五〇音別電話帳には前記夜間電話番号が登載されているが、昭和五一年六月一日発行の職業別電話帳にはその記載がない事実が認められることからすれば、原告会社の夜間電話が森久吉宅のものであるのは、原告代表者が赤坂通三丁目在住時のものがそのまま引継がれたものにすぎないとする原告代表者の前記供述は措信できないものであつて、むしろ、森久吉宅に原告会社の夜間電話を設置していることは、森久吉が原告会社の重要な取引等に直接、間接関与していることを窺うに足るものである。

他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

2  なお、原告は、森久吉が昭和五三年八月九日「裁決書謄本在中」の表書のある封筒を受領し、同日夜原告会社代表者が自宅に帰宅したからといつて、原告会社の代表者にとつて社会通念上了知し得べき状態におかれたとはいえないとか、赤坂通三丁目への送達日をもつて出訴期間を起算するのは衡平の理念に反するとか主張するが、独自の見解にすぎず、採用できない。

3  そうすると、原告は、森久吉が本件裁決のあつたことを知つた日である昭和五三年八月九日に右裁決のあつたことを知つたものというべきであるところ、行政事件訴訟法一四条一項、四項を適用して出訴期間の計算をする場合には、裁決のあつたことを知つた日を期間に算入すべきものと解するのが相当であるから、原告の主位的請求は、出訴期間を徒過して提起されたもので、不適法であるといわなければならない。

二  予備的請求の原告適格について

予備的請求にかかる本件各処分の無効確認の訴えに適用されるべき行政事件訴訟法三六条によれば、原告が、昭和五二年九月三〇日までに、昭和四九年度分ないし昭和五一年度分の法人税をいずれも納付していることは当事者間に争いがないのであつて、原告は後続処分により損害を受けるおそれはないのであるから、本件各処分の効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつては目的を達することができない場合にのみ、右各処分の無効確認の訴えを提起することができるものであるところ、原告は、右各処分の無効を前提とする現在の法律関係に関する訴え(例えば不当利得返還の訴え)によつてその目的を達することができるものというべきであるから、本件無効確認の訴えは原告適格を欠き不適法である。

三  よつて、原告の主位的請求、予備的請求はいずれも不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 阪井いく朗 谷口彰 高野伸)

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